「モノクロ映画に戻る理由」昭和のミニシアターで育った心の色

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映画が好きです。いや、好きでした。


もしかしたら、「昔、映画が好きでした」と言う方が正しいかもしれません。1970年代から80年代、邦画も洋画も名作が次々に生まれた時代。映画館の暗闇が、私にとっての一番の居場所でした。

当時は今のように配信サービスもなく、映画は「観に行く」ものでした。小さなミニシアターが、駅の近くや路地裏にひっそりとあって、3本立てやオールナイト上映も珍しくありませんでした。座席は少し傾いていて、床にはポップコーンが落ちていたりする。けれどそのざらりとした埃まじりの湿り気があるような空気が、なぜか落ち着く場所でした。

私がよく通ったのは、上野の小さな映画館。ストリップ劇場や小さなドアのスナックや食堂が並ぶ通りの奥に、小さな豆電球のような明かりを弱弱しく灯していました。

初めて入った時は、勇気がいりました。キャップを目深にかぶり、チケットを握りしめて中に入ると、観客はわずか三人。暗闇の中で始まったのが、フェデリコ・フェリーニ監督の『道』(1954年)でした。

スクリーンに映るジュリエッタ・マシーナの表情、ニーノ・ロータの音楽。そのすべてが白と黒の間に浮かぶ「心の色」でした。終映後、外に出ると通り雨のあとの湿った空気が、もわっとまとわりつきました。けれど不思議と心は澄んでいました。

その後も、同じ劇場でチャップリンの『ライムライト』や『キッド』を観ました。古びたシートに身を沈めると、そこにはいつも同じ静けさがありました。モノクロ映画には、色のない世界の中に、すべての感情が詰まっているように思えたのです。

最近、疲れた夜に昔の映画をパソコンで観ることがあります。画面越しでも、あの時の匂いや音の記憶がよみがえる気がします。
モノクロ映画は、とっくに心の奥に沈んでしまったはずの時間を、やさしく照らしてくれる灯のような存在。華やかな色彩の映画よりも、私の中ではずっと豊かな色を放っているのです。

今では著作権フリーになってしまった不滅の名作『道』

歴史の中の遠い名作。ユーチューブで探したら観ることができるかもしれませんね。

【道】(1954 イタリア)
監督:フェデリコ・フェリーニ
音楽:ニーノ・ロータ
主演
ジュリエッタ・マシーナ
アンソニー・クイン

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